競争優位の3源泉を生み出す優位性の輪

これはなにか

「コピーされない競争優位の築き方」と題して2019年末に社内向けに公開した資料をベースに、コピーされない競争優位を作るために重要な3つの要素と、それが生まれるプロセスを図解したものである。

全体構造

プロセス全体の説明、重要ポイントを成立させるためのカギ、必要な基盤など話を掘り下げた結果、ボリュームが大きくなったため3部構成で3つのポストに分けて説明する。

  1. 競争優位の3源泉の説明とそれが生まれるプロセスについて
  2. 「良いオペレーション」を支える構成要素について
  3. 構成要素を作る上で最優先で取り組むべき点

本ポストでは、「1. 競争優位の3源泉の説明とそれが生まれるプロセス」を取り上げる。

模倣できない3つの資産

少し前のツイートだが、heyの佐藤さんのツイートから引用させていただくと、データと、ブランド、ネットワークエフェクトの3つこそが模倣できない資産である。

私はこの考え方がとても好きで、本当に仰るとおりだなと思っていて、これらこそが競争優位を作る上で一番重要なのではないかと考えている。

※以下、私自身の独自解釈を含むので、佐藤さんご本人の意図とはズレてるかもしれない

コピーされない競争優位の源泉1: データ

データとは製品やサービスの運用で蓄積されたデータのことを指しており、自社内に閉じた資産となっている。
自社のサービスの運用を通じて溜まっているものであり、具体的には利用頻度や金額、購入商品、デモグラフィックデータ、あわせて購入されている商品、アクセス情報、閲覧情報、決済情報など、様々なデータを指している。
また、実際の利用を通じて生まれているものなので、コピーができない。

コピーされない競争優位の源泉2: ブランド

ブランドはユーザーのもつ、製品やサービスに対する認知のことを指す。
その製品・サービスがユーザーに持たれている認知は、他社が目指すことはできても、コピーすることはできない。

コピーされない競争優位の源泉3: ネットワークエフェクト

ネットワークエフェクトとは「利用者が増えれば増えるほど、その製品・サービスの利用者の利便性が高まる効果」を指す。
卑近な例を出せば、電話がそうである。電話を持つ人が増えれば増えるほど、掛けられる相手が増えるので、電話ネットワークへの参加者の利便性が増す。
更に抽象化すれば言語もそうであると言える。習得する言語の利便性はその言語の話者の人口が増えれば増えるほど高まる。

ネットワークエフェクトについては前田ヒロさんの下記の記事が詳しい。

前田ヒロ

本記事は、https://www.nfx.com/essays を要約したものです。著作者(James Currier)…

ネットワークエフェクトもユーザーをまるごとコピーすることはできないため、目指すことはできてもコピーはできない。

フェイクな競争優位

一方で、競争優位の源泉だとよく言われるが、簡単にコピーされるものであるため、実は競争優位の源泉ではない「フェイク」も存在していると思っていて、下記などはその代表であると考えている。

  • 低価格による価格競争力
  • UI、デザイン、サービス設計

これらは簡単にコピーできてしまうため、一見競争優位の源泉のように見えるが、そうではないと言える。
これらを支えるオペレーションの妙や、それらが生まれる組織文化などは競争優位の源泉と言えるが、その生み出された結果としての上記のような要素はそうとは呼べない。

競争優位を生み出す”優位性の輪”

これまで述べてきた競争優位の3源泉は下記のループの中で生み出されると考えている。

競争優位の3源泉を生み出す優位性の輪

これは2 sided platformの例だが、2 sided platformでない事業体だとしても基本のループは変わらない。

サービス・製品の利用からスタートする円環で、データの部分を弾み車(はずみぐるま)として循環が加速されていく。
その過程で中心に据えられている「利用」が促進され、さらにデータがたまり、この循環が強化されていくモデルになっている。

ひとつずつ時系列に沿って詳述する。

1.サービス・製品の利用〜データ

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サービスや製品を世にリリースしたときに、まずはじめに発生するイベントである。
初期の「利用」は爆発的なヒットである必要はなく、アーリーアダプターによる一定の利用で構わない。

サービス・製品の利用が行われると、そこに利用データが発生する。
例えば、利用した日時やリテンション、どういったユーザーがいつどこでどんな活動を行ったかというデータである。

これはウェブサービスだけではなく、オフラインのサービスでも同じである。
例えばレストランやカフェだとしても、お客さんの来店時間、来店頻度、注文した商品、よく売れるメニュー、テイクアウトとイートインの比率、来店者に占める物販購入者の比率、利益率の高いアルコール飲料の注文者比率などなど、データは発生している。

オフラインでは取得のハードルが高く、精度・頻度・データの欠損(取得のムラ)の面で、適切に取得できていないケースが多い、というだけの話である。
オフライン・オンライン問わす、取得できるデータは多い。

適切に取得・収集できているかは別として、とにかく利用があればデータは生まれている。

2. 良いオペレーション〜良い体験

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次に生まれたデータを利用して良いオペレーションが作られる。

ここでいうオペレーションは広義のオペレーションであり、自動化されたシステム、プログラムによる価値提供も含まれる。
この広義のオペレーションは、具体的には、コールスタッフの荷電やカスタマー対応、広告データ入稿作業などの教義のオペレーションだけの話ではなく、協調フィルタリングや機械学習を用いて作られたモデルによる商品リコメンド、ロジックベースのリマインダー通知、ユーザー特性に最適化されたマッチングシステムなどの自動化されたオペレーションをも含む、広い概念である。

利用により生まれたデータを利用して、ユーザーに最適なものを最も効率よく届ける「良いオペレーション」の実現により、驚きを伴う良い体験が生まれる。
この驚きを伴う良い体験を通じて、ユーザーのロイヤリティや第一想起が高まり、利用が促進される。
指標としては、リテンションレートに代表されるような、ユーザーの訪問指標が伸び、さらにメインアクティビティのリテンション指標が伸びる。

このステップでは、ユーザー一人あたりの活動量が増すことで利用が促進され、データが蓄積が加速する。

3. 良いブランド〜ユーザーの増加

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次に、良い体験を通じて、良いブランドが作られる。

良いブランドはマーケティング施策によって、外部的に作る側面もあるので、このステップ単体で完結するとは考えていない。

良いブランドによって、ユーザー獲得がしやすくなり会員獲得にレバレッジが効く。結果ここで自然発生的にユーザーが増加する。
指標としては、獲得効率が上がり、獲得単価が下がる。結果として月次でのユーザー獲得数が伸びる。

このステップでは、利用ユーザー数が増えることにより、利用が促進され、さらにデータが蓄積される。

4. ネットワークエフェクト

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これまでのプロセスを通じて、2 sided platformの両面のユーザーが増えていくことにより、利用者にとってのマーケットプレイス自体の価値が高まる。

例えば、ECのマーケットプレイスであれば、出品者/商品種数が増えることで「何でも揃う場所」という意味で購入者にとっての価値が高まる。購入者が増えることで「より売れる場所」として出品者にとっての価値が高まる。
ZOZOやAmazon、楽天、メルカリなどを想像すると、ネットワークエフェクトが効いている例としてイメージがしやすい。

両者にとっての価値が高まった結果、ユーザー一人あたりの活動量・頻度が増すことで利用が促進され、さらにデータが積み上がる。

平凡な企業は良いオペレーションができずに失敗する

ここまでのループを順を追ってみていくと、単純な話のように思えるが全てのサービス・製品がこの状態を作れているわけではない。
この円環のどこでコケるのかというと、データ→良いオペレーションのパートだと考えている。
データを適切に利活用し、広義の良いオペレーションをつくることが出来るかどうか、が明暗を分ける。

平凡な企業は良いオペレーションができずに失敗する

ここが上手く作れていないと、魔法のようなマーケティングで獲得してきたユーザーや、利用前ユーザーへの前評判的なブランディングも、利用開始で一気に瓦解する。

ケーススタディ: メルカリに見る良いオペレーション

たとえば、メルカリで考えてみると、出品者、購入者で以下のようなデータによる良いオペレーションが生まれている。

  • 出品者にとっての良いオペレーション
    • 機械学習を利用した価格推定モデルによる売れやすい価格の提案機能
    • 写真を取るだけで商品情報を推定して入力を補完してくれる機能
  • 購入者にとっての良いオペレーション
    • 閲覧した商品情報をもとに興味のある商品を押し出すタイムラインフィードの機能

ユーザーの利用から発生したデータを生かして、良いオペレーション→良い体験を生み出せており、そこから売りやすい、売れやすい、探しやすい場所といった認知を作れている。
その結果、出品者・購入者が定着し、ネットワークエフェクトにつながっている。

もちろん、大胆なTVCMへのマーケティング投資、クロネコヤマト、日本郵便、コンビニ各社をはじめとした配送ロジスティクスなど、複合的な要因が背景にあるので、製品やデータの扱いだけが全てとは言えない。

ただ、ユーザー獲得マーケティングによって獲得したユーザーが実際に製品を触ったときに、データの利活用による良い体験が作れていないとユーザーは定着せず、結局利用は促進されないので、十分条件ではないにせよ間違いなく必要条件である。

良いオペレーションを構築するには

ここまで述べてきた「良いオペレーションの構築」については、「データ主導のオペレーションループ」(Data-driven Operational Loop)という概念で整理ができる。
「データ主導のオペレーションループ」という概念では、良いオペレーションを実践していくにあたり、どういった構成要素があって、なにが重要なのか、ということを構造化している。

次回のポストでこの「データ主導のオペレーションループ」について詳述していく。

次回の記事

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まとめ

  • 模倣されない競争優位を築くには、データ、ブランド、ネットワークエフェクトという競争優位の3源泉が大切
  • 競争優位の3源泉は、優位性の輪というモデルにしたがって、そのプロセスを循環することで生まれていく
  • 優位性の輪の循環を回す鍵はデータの利活用による「良いオペレーション」が構築できるかどうかにある

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