サイバーエージェントとメルカリにみる組織強化システムの構造的分解

これはなにか

サイバーエージェントとメルカリの「採用前〜退社後」という一連のエンプロイー・ジャーニーに内包されている組織強化システムを構造的に分解するポストです。

メルカリのCuture Doc公開に際して、実際に起きたことを懐かしく思いツイートしたら予想外の反響をいただいたのですが、その中で私のもうひとつの古巣でもあるサイバーエージェントのことを引き合いに出して貶すような引用リツイートも見られました。

サイバーエージェントを貶されるのは私の望むところではないので、両方の会社にいて中から見ていた視点から、両者の組織強化システムの違いを言語化することを試みる記事です。

目的と対象者

もともとこれは両社に在籍時から「なんでこんなにうまくいき成長する会社なのだろう、なにかうまく有機的に組み合わさった強固な仕組みがあるはずだ」と思い観察と思考を続けていたものを改めてまとめたものです。

本考察は思考訓練・研究半分、自分の会社やチームにベストプラクティスとして活かす目的半分で行われているものです。

よって、自分のチームを持つマネージャーやリーダー層の方や、同じくスタートアップを経営される境遇の方などの参考になると嬉しく思います。

本題に入る前に免責

※私が在籍していた期間においての、特定の立場視点から観察・推察した情報をもとに書かれているため、両社の現在の状況を正確に反映しているものではありません。

※また、紙幅の都合上、断定的な口調で表現しているところもありますが、必ずしも各社が正式に方針として打ち出していたことを意味するものではなく、あくまでも個人の観察と私見によるものです。

※複数の事例を並べて差異を見るという趣旨の構造上、コントラストが際立つ内容になっている部分があります。一方の会社の特徴を、もう片方の会社が全く持っていないという意図ではありません。

組織強化の仕組みは組織カルチャー、事業戦略に深く結びつく

当たり前といえば当たり前ですが、まとめてみると、どちらの会社も会社のバリューやカルチャー、事業戦略にピッタリと沿った組織強化の仕組みが組み込まれ、運用されていると感じました。

以下一枚の図にまとめました。

この図にあるように2社は人材登用・活用の文化が異なり、事業ドメインなど立脚する大前提が異なります。

それにより、エンプロイー・ジャーニーの入り口である採用方針、中間に存在する組織強化ループ内の各ノード、出口である退職に関するスタンスも全く異なったものになっています。

ともすると、この組織強化ループの各ノードやその取組み、人事制度施策などが注目を浴びやすく、他社でも点の視点で人事制度や施策のみを真似して取り入れるというケースになりやすいですが、本当に大切なのはこの組織カルチャーや事業戦略等の前提条件です。

この前提条件がズレた状態でベストプラクティスのように見える他社の施策をコピーしても前提がズレているので結果もズレていきます。

そのため、以降でなにが組織強化システムの前提になっているかについても注意して記述していきます。

サイバーエージェントの組織強化ループ

それではまずはサイバーエージェントを見ていきます。

15のMission Statement

サイバーエージェントにおけるValueに当たるものがこのMission Statementです。

このMission Statementは隅々まで浸透しており、みなが口にしているし実際にカルチャーとして根付いています。在籍5-6年を通じて私自身も強く影響を受けています。

組織強化ループ: キーワードは「打席ドリブン育成」

以下に、サイバーエージェントの組織強化ループを図示しました。

前提となる土台部分の上にシンプルな3つのノードがループを作っています。

以降で前提と各ノードについて説明します。

0. インターネットの総合商社

先述のMission Statementにある『インターネットという成長産業から軸足はぶらさない。』という言葉を体現するように、サイバーエージェントの事業展開は幅広いです。

総合商社は扱う商材の幅広さを表現して「カップラーメンからロケットまで」などと言われますが、サイバーエージェントはインターネット業界でこれを体現していると思っていて、在籍時から個人的にサイバーエージェントのことを『インターネットの総合商社』と呼んでいました。

このインターネット商社的な事業ドメインの広さ、新規事業の立ち上がる頻度・数の多さが社内にポジションを生みます。

これがサイバーエージェント社固有の前提条件です。

1. あちこちで起こる若手の抜擢

新しい事業が立ち上がればそこには優秀な人材が必要です。そこに若手がいきなり抜擢されることもありますし、中堅社員が登用される場合でも、玉突きで中堅社員が担っていた重役ポジションが空くのでそこに若手が抜擢されます。

これもMission Statementに記載されている「若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止。」を体現しています。

2. 決断経験による成長機会の増加

そして抜擢されると、身の丈を超える挑戦をすることになり、「決断経験」をする機会が飛躍的に増えます。決断経験とは、同社人事責任者の曽山さんの言葉を借りると「これまでやってなかったことを、やると決めること。」です。この決断経験を増やすと成功と失敗の絶対数が増え、そこから多くを学び成長ができます。

3. チャレンジへの心理的安全性

そして最後に「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。」というMission Statementに集約される、挑戦に対する心理的安全の確保および、再登板の仕組みがあります。抜擢により失敗したとしても決断経験を積むことで、成長しているわけでその社員には新しいチャレンジの機会が巡ってきます。

4. 若手の活躍が量質ともに組織を強化する

加えて、社員総会の全社MVPやベストルーキー賞のように活躍する人にスポットライトが当たる仕掛けがあり、自然とこの強化ループに入りたくなるような工夫が随所にあります。

これらの一連の仕組みにより、組織の質的な厚みが増すと同時に、「優秀な若手が活躍できる場」として新卒採用におけるプレゼンスが高まり、量的にも厚みが増すことに繋がります。

5. 強化ループが離職を防ぐ

また、何も持たない大学生・新入社員が抜擢により挑戦の機会を与えられ、失敗してもその経験の中で成長実感を得られ、さらに再登板の機会を与えられることで組織へのロイヤルティが上がり、離職しにくくなります。

これらのサイクルにより組織の質的な厚み、量的な厚みが強化された上に、離職しにくい仕組みができていて、本当にサイバーエージェントはすごいなといつも思っています。

メルカリの組織強化ループ

一方でメルカリですが、個人的には異なるベクトルでのアプローチだと思っています。

Go Bold, All for One, Be a Pro

大前提となるメルカリのValueは有名なこの3つです。

サイバーエージェント同様、組織の隅々までValueが浸透しています。メルカリにおいてはこのValueが固有のユニークなものとなっており、同社の組織強化ループにおける大前提となっています。

組織強化ループ: キーワードは「プロにフォーカス」

以下に、メルカリの組織強化ループを図示しました。

メルカリの組織強化ループはValueのひとつ「Be a Pro」(私が居た当時は Be Professionalでした)と「Go Bold」が強く体現されたシステムだと思っています。

ここでのキーワードは「プロにフォーカス」です。

以降で前提と各ノードについて説明します。

0. プロは市場に多くはない

ValueのBe a Proの項目を見ると、「一人ひとりがその道のプロフェッショナルとして高い専門性を持ち、日々の学びを怠らない姿勢」で「高度なスキルとポジティブなマインドの両方を持ち、行動に移」し、「自らの仕事にオーナーシップと責任を持ち、成果や実績にコミットする」と表現されており、これらのプロフェッショナルが活躍できる状態を整えることに注力されています。

一方で、これらを満たすようなプロの数は労働市場全体で見たときに、必ずしも多いとは言えないでしょう。

この「市場で希少性の高いプロの活躍に注力する」というのがメルカリ社固有の前提条件です。

1. 自然と自社を推したくなる環境づくり

各種組織施策に代表されるようにプロフェッショナルにとって働きやすい環境づくりに注力していると思っていて、働きやすい環境があるからこそ、社員が自然と自社を推したくなるため、リファラルが回ります。

2. 最高のプロフェッショナルと働けることが一番の福利厚生

在職中に何人かのエンジニアから「○○さんのコードレビューを受けられることが最大の福利厚生」といった言葉を聞いたことがあります。

プロフェッショナルはプロフェッショナルと一緒に働けることをポジティブに捉えることが多いため、それにより再びリファラルが回るという構造があるように思います。

3. 「プロとの契約」から生まれる離職の容認と量的厚みの担保

一方で、「プロフェッショナルな個人と会社の契約関係」というスタンスがあるからこそ、新しい社外への挑戦(退職)においてもフラットに送り出すというスタンスをとっています。

ただし、同社の高い採用基準にかなうプロの数はかぎられているため、送り出し続けていては組織の量的な厚みが減るばかりです。

ここで、再びお互いの道が交わるならば「出戻り歓迎」とすることで、その量的な厚みが減っていくことを防ぐ仕組みにつながっていきます。

実際、プロフェッショナルにとって働きやすい環境かつ、各種施策も大胆(Go Bold)で常に半歩先を行っていて、中に居ても外から見てもイケてるなと思うものばかりであるため、在籍中の従業員体験は大変良いものでした。

そのGo Boldな施策と良質な従業員体験こそが、打ち出すだけではなく実際に出戻りをして再活躍するプロを生み出しているんだなといつも感心しています。

まとめ

当たり前ですが、一概にメルカリのスタンスは素晴らしい、サイバーエージェントはダメみたいな話では無いかなと思います。

各社の事業ドメイン、バリュー、事業戦略、人材登用方針、採用戦略、育成方針、カルチャーに裏打ちされ、それらが密接に絡み合った組織強化ループになっており、このように会社の根幹に結びつく仕組みづくりができているからこそ、強い組織が作れているのだなと思います。

なので、サイバーエージェントやメルカリの仕組みを、点だけで捉えて単に猿真似するだけだと、全くワークしないばかりか逆効果になることもあります。

そのため、その仕組み・施策が他社で成立している前提条件や、自社における周辺の各方針や戦略とのアラインが取れているかを確認しながら施策を適応していくべきだと常々考えています。

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