これはなにか
曖昧な言葉になってしまった「『戦略』とはなにか」についての、現時点での個人的な解釈を整理したものだ。
「戦略ってなに?」という問い
新卒1年目のころ、当時のボスであった西條さん(現XTech代表)が「髙橋くん、戦略っていうのは戦いを略すことなんだよ」という趣旨のことを仰っていた。
当時は「なるほど、そういうものなのか。たしかに『戦いを略す』と書くしな。」と、何もわからないなりに、妙に納得したことを覚えている。
その経験をきっかけとして、折あるごとに「戦略ってなんだ?」ということを考えるようになった。
時は流れて「こういう戦略でいきます」「戦略的に考えて」などという言葉を聞くたびに、「それって戦略と呼ぶほどそんなに大層なことか?」と思うことが多かった。
そして、そういう人に「戦略ってどういうこと?なにを意味してるの?」と聞いても明確でソリッドな回答が返ってきたためしがなかった。
空疎な言葉に成り下がった戦略
「戦略」は他の言葉と組み合わせるだけで、急に熟慮に熟慮を重ねて編み出した高尚な方針に聞こえる魔法の言葉だ。
それゆえに、巷には「戦略」と名のつくものが溢れかえっていて、猫も杓子も戦略を使う。
たとえば、戦略思考、採用戦略、営業戦略、製品戦略、事業戦略、戦略パートナーシップ、といった調子だ。
戦略と銘打ったハリボテはその実、何かを言っているようで何も言っていない空疎なスローガンであることが多い。
戦略にまつわる言葉が溢れかえっている
さらにやっかいなことに、戦略という言葉の至便性からか、戦略に関連するワードが山程存在する。
たとえば、戦略、戦略目標、重点戦略、戦術、作戦、計画、兵站、最終目標、etc… これらの違いを正しく説明できるだろうか。
自分できちんと意味を定義、理解・整理して使い分けられているだろうか。
これらのワードの定義の曖昧さが、混乱に拍車をかけている。
戦略とはなにか
前置きが長くなったが、戦略とはなにか?
結論から言うと、戦略とは「指標の選択」「リソース投下の配分決定」のことに他ならない。
戦況を有利に導く効果的な指標が何かを決めて、そこに全リソースを注ぐことであり、それはつまり現状を好転させる一点突破地点を見極め、どう突破するかまでを含めて、全資源投入の全体方針を打ち出すことである。
また、戦略は複数の作戦(≒計画)から構成されるものであり、階層構造をもっている。
それゆえ、戦略(Strategy)の失敗は、その下部構造である、作戦(Operation)や戦術(Tactics)をいくら上手く執り行っても、取り返すことはできない。
戦略「でない」もの
また、本エントリを書くにあたって参考になった「良い戦略、悪い戦略」を読み進める中で、戦略ではないものがなにかが明確になった。
何かを定義するとき、「そうでないもの」が何かを定義することは、輪郭をはっきりさせる上で役に立つ。
「良い戦略、悪い戦略」によれば、戦略でないものは下記のようなものである。
- ビジョンやミッションやバリューのような口当たりの良い言葉
- ただの目標や願望の羅列になっており、どう突破するのかが含まれていない
- ただの計画にすぎない
- 現実的ではなく、地に足がついていない
- 現状の最大の問題点に目をそむけている
- 寄せ集めのごった煮になっており、フォーカスするポイントが絞れていない
戦略の見取り図
先に書いた通り、付加するだけで俄に高尚な雰囲気を纏える便利ワード故に、戦略にまつわる言葉が巷に溢れかえっている。
それらの戦略にまつわる言葉を、まとめてひとつの図に整理したものが下記である。
ひとつずつ説明していく。
1. 最終目標
最終目標は、その組織ないしは事業のもつ最終的なゴールである。多くは、その組織がビジョンに掲げているようなものになるだろう。
2. 事業目標
その事業における目標である。図では割愛しているが、最終目標と戦略の間に存在する。
例えばECプラットフォームであれば月間GMV(Gross Merchandise Volume)になるであろうし、ライドシェアであれば月間の総ライド数になるだろう。マッチングアプリであれば月間の総マッチ数だろうか。
ここで注意したいのは事業の伸びを示すものであり、財務会計的な売上や利益ではないということである(シンプルな事業モデルであれば、「事業の伸び=売上」で表すケースもあるだろう)
3. 財務目標
事業目標で売上や利益を扱わない分、その役割はこの財務目標が担う。これも事業目標と同様に割愛しているが事業目標と同じ位置に存在する。
トランザクション(一取引)ごとのテイクレート(手数料率)が一定であり、事業意外の収益がない場合などは、事業目標が唯一の売上増加の変数となるため、意識されないことが多いが、事業目標と売上・利益は当然異なる。
4. 戦略目標
これが一番混同されやすいと概念だと思う。
戦略目標は「戦略を実現するために、いくつかの要素に分解し落とし込んだ目標群」を指している。「戦略目標を達成するための戦略」や「この戦略のゴールとなる目標」ではない、順番が逆なのだ。
「良い戦略、悪い戦略」に掲載されていた事例がわかりやすかったので引用する。
チェン・ブラザーズの最終的な目標は、利益の拡大と働きやすい職場の実現、そして信頼できるオーガニック食品卸になることである。(中略)では、同社の戦略は何かと言えば、それは、大手スーパーでは扱わない高級食品や珍しい食材を高値で仕入れてくれる地元の食品店にターゲットを絞り込み、そこでシェアを拡大することである。経営チームはターゲット顧客を三つのランクに分け、それぞれに戦略目標を設定している。最も重要な目標は、第一ランクの食品店で圧倒的シェアを獲得すること。続いて第二ランクでは売り込みに見合うシェアを獲得すること、第三ランクでは商品の浸透を図ること、である。
この事例からもわかるように、戦略目標は戦略の下に来るものなのである。
5. 作戦・計画
戦略は複数の作戦から構成される。単一の作戦で完結するものは戦略と言えない。
作戦は、それそのものが計画とイコールであることもあるし、複数の計画がその中に存在していることもあるだろう。
計画とは4W2Hに基づく明確なプランを指す。
- 誰がやるのか (Who)
- 何をやるのか (What)
- いつやるのか (When)
- どこでやるのか (Where)
- どうやって/どの程度/いくらでやるのか (How, How much)
これらに明確に答えることができ、予定が組み上がるもの、それが作戦であり計画である。
6. 戦術
戦略とはもともと軍事用語であり、戦術とは現場での各個戦闘レイヤーでの戦い方の話である。
よって、各作戦の中でのポイントにおいて、どのように上手くやるか、という狭いスコープに限られる。
例えば、キャンペーンメールの精度であったり、LPの中の訴求やCTAを磨き込んでCVRを上げる試みだったりが該当するであろう。
これもまた、日常用語では使わない高尚な雰囲気のある言葉なため、戦略と混同されて使われることが多いように思う。
CVRをあげるための戦略などと称して「まずは顧客課題への共感から入り、自製品の訴求ポイントを打ち出し、権威付け・信頼醸成をし、魅力的なCTAでコンバージョンにつなげる、この一連の流れを素晴らしいデザインで実装する」といった調子で混同して使われる。
こんなものは戦術レベルの話に過ぎない。が、しかし実際は、戦術レベルのことを戦略などと称して使用している例があまりに多いように感じる。
7. 兵站
兵站は前線に補給を行う補給活動のことを指す。
これはすなわち資源調達のことであり、必要なレベルのリソースを必要量、必要なタイミングで調達するということを意味している。
事業運営・経営における資源とはヒト・モノ・カネであるため、これらを補給するための活動ということになる。
具体的にはこれらの活動が挙げられる。
- ヒト: 人材採用, 人材登用, 人材育成, 人材配置の最適化
- モノ: 業務提携, 資本提携, 事業買収, 企業買収
- カネ: エクイティファイナンス, デットファイナンス, その他資金調達
兵站の重要性については、下記の記事に詳しく記載されているため割愛する。
http://d.hatena.ne.jp/shi3z/20120416/1334543387 - 2015年4月12日…
まとめ
「戦略とはなにか」ということの定義を明確にし、解像度を上げていくと、これまで戦略だと思っていたものが、全く戦略ではなかったり、戦術レベルの小さなものを指していたりすることに気づく。
戦略とはなにかをまとめると次の3点に集約される。
- 現状を好転させる効果的な指標を決め、そこに全資源を捧げること
- 具体的で、実際にどのようにして達成に向かうのかHowの部分が明確にあるもの
- 現在の最も大きな問題に真っ向から取り組んでいるもの
自分の立てている戦略は「果たしてそれは戦略と言えるのか」と常に自問し続けたい。
参考文献
- 【魚拓】戦略(Strategy)、作戦(Operation)、戦術(Tactics)、そして兵站(Logistics) – shi3zの長文日記
- 戸部 良一, 寺本 義也, 鎌田 伸一, 杉之尾 孝生, 村井 友秀, 野中 郁次郎 『失敗の本質』 ダイヤモンド社 1984
- 鈴木 博毅 『「超」入門 失敗の本質』 ダイヤモンド社 2012
- リチャード・P・ルメルト 『良い戦略、悪い戦略』 日本経済新聞出版 2012
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