マーケットプレイスの出発地点はどこか?

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これはなにか

あらためて振り返るとマーケットプレイス型のサービスを提供する仕事を始めてから5年が経過して、その間にタイプの異なるマーケットプレイスの立ち上げも経験した。

それらのマーケットプレイス型のサービスを展開するにあたってよくある問いに「売り手が先か、買い手が先か」という問いがある。本ポストはこの問いについての考えをまとめたものである。

マーケットプレイスとはなにか

ここで言うマーケットプレイスとは、Two-Sided Marketplaceと呼ばれる、「ある商品・商材の取引において、売り手と買い手の両方を集めマッチングさせるプラットフォーム」と定義する。

よく知られた新興サービスでいえば日本ではメルカリ、グローバルではUberやAirbnbなどが該当するだろうし、古くからある商いの形で言えば、魚河岸や青果市場などもこの括りに該当する。

この章では一般的に知られているマーケットプレイスについて触れるので、マーケットプレイスを運営している方や、一般論はすでに知っているという方は次の章まで読み飛ばして欲しい

また、マーケットプレイスそのものについて興味がある方は、下記の米国のVCが2015年に発表したA Guide to MARKETPLACES(日本語版は下記ブログから)やANDREESSEN HOROWITZのThe Marketplace Glossaryに体系的・網羅的にまとめられているため、参照されることをおすすめする。

安田のはてなブログ

バンクーバーとシリコンバレーのパロアルトに拠点を置く、ベンチャーキャピタ versiononeが 2015年11月に公開…

Andreessen Horowitz

This week, we published the a16z Marketplace 100, a ranking …

マーケットプレイス内のプレイヤー

マーケットプレイスには少なくとも2つのプレイヤーが存在する。それが売り手(Seller)と買い手(Buyer)と呼ばれる人たちである。前述した定義のように「ある商品・商材の取引」を行うプラットフォームになるので、それらの売り手と買い手がいるという構図だ。これらは「売り手(seller)」と「買い手(buyer)」と表現されることもあれば、「供給者(Supply Side)」と「需要者(Demand Side)」と表現されることもある。

後述するが、この部分の区分け・定義が大変重要で、本ポストのテーマはこの部分が主眼となる。

表現の仕方はあれども、これらの2者がマッチングする場を提供し、なんらかの形でその手数料を徴収するのがマーケットプレイスの基本である。

マーケットプレイスでは「売り手」が重要と言われる

マーケットプレイスを始めるにあたって何が重要か。鶏卵になるのだが、商品のない市場に客は来ないし、客の来ない市場に販売者は出店しないものである。

前述したA Guide to MARKETPLACESによると、マーケットプレイスの立ち上げにおいては「売り手、サプライヤー」が重要であると書かれている。

鶏卵ではあるものの、実際に商品のない市場に客はこないし、売り手はまだ待てるが商品のない市場をうろついて商品の到着を待ち続けるモチベーションは買い手側にはゼロであると書かれている。

シンプルな商品売買のマケプレは売り手が先

ここで具体的な事例を上げて「売り手を先に集める」の確からしさを確認する。たとえばメルカリ、ラクマ、ヤフオクのような物品販売のマーケットプレイスを考えてみる。

これらのマーケットプレイスにおいては売り手が商品を出品しなければ買い手は集まらないという理論は確からしく感じられる。さながら共同購入のように○人あつまらないとセラーが現れませんという仕組みでは、マーケットプレイスは立ち上がらないだろう(実際、共同購入モデルも○人集まらなければ成約されないというだけで、事前に売り手を集めてからサービスインされている)。

このケースでは「売り手」という お金を受け取り、商品を提供する側 を先に集めればよい。

役務提供型のマケプレの例外ケース

しかし、一方で商品売買のような単純なマーケットプレイスではない場合、この公式は崩れるケースがある。

たとえば、ビザスクのような「仕事の受発注のマーケットプレイス」いわゆる役務提供型のマーケットプレイスである。

ビザスクでは、プロフェッショナルの知見を得たい個人や企業と、プロフェッショナルな知見を提供できる個人をマッチングさせ、知見が欲しい側が知見を持っている側に対して、知見提供の報酬として報酬を支払うというサービスである。このケースにおいてお金の流れで見ていくと、知見を提供するプロフェッショナル側が「売り手」であり、報酬を支払う個人・企業側は「買い手」である。

ここでも「売り手を先に集める」という基本公式に則って運営を続けていくと、各業界の知見を持った人が集まった状態が先に生まれる。しかしその状態では、売り手とされる人は買い手とされる人があつまり案件成立まで待つことが出来ずに離れていってしまうだろう。

Supply Side, Demand Sideとは何か?

ここで持ち上がってくる疑問が「Supply Sideとは何か?Demand Sideとは何か?」という点である。

前述のシンプルな物品売買のマーケットプレイスの場合はわかりやすい。
Supply Side(供給側)は商品をマーケットプレイスに供給し、Demand Side(需要側)が商品を求め、代金を支払い取引が完結する。Supply Sideは売り手であり、Demand Sideは買い手である。

一方、役務提供型のマーケットプレイスの場合はどうだろうか。

例えばビザスクの公募案件一覧では「コミュニティアプリのTAMの考え方についてのご相談」といった案件や「自宅のリフォームやリノベーションを経験された方、経験談をお聞かせください」といった案件がならぶ。

これらの案件を投稿する依頼主側はSupply Sideだろうか?Demand Sideだろうか?言うまでもないが報酬は案件を投稿する側が払う。では依頼主側はDemand Sideだろうか?しかしビザスクを触ってみたところ、これらの公募案件が先に有りきで、案件に対してプロフェッショナルが応募する形式になっているように見える(ビザスク運営チームを経由して案件主からオファーがくるケースも存在はしている)。

では依頼主側はSupply Sideなのだろうか?買い手なのに?商品となる労働力を提供するのはプロフェッショナル側なのに?

一口に役務提供型という軸だけでは切れない

また、さらに状況を複雑にしているのは役務提供型のマーケットプレイスであっても、比較的単純な「ピアノを教えます、ギターを教えます」といった趣味的な要素の強い役務提供型のマーケットプレイスの場合は、役務提供側を先に集めたほうが良いように思える。

これはビザスクのようなビジネスプロフェッショナルによる役務提供型のマーケットプレイスとはまた異なった構造にあるのだろうか?これらを分かつ差分はどこにあるのだろうか。

需給の希少性?それもまた違う

世の中に存在する希少性だろうか?需給バランスにおいて、希少性が低いほうが先に集められるべきなのだろうか。たしかに「ピアノを教えられる人」よりも「コミュニティアプリのTAMの考え方のご相談に乗れる人」のほうが日本全国で見たときに希少性は高そうではある。しかし、そもそも「コミュニティアプリのTAMについて相談したい人」がそんなにも沢山いるのだろうか。それもあやしい。希少性の軸で考えても明確な分岐点が見えてこない。

このあたりのSupply/Demand, 売り手/買い手といった区別が簡単なようで実は意外と複雑であり、新しいマーケットプレイスを立ち上げる際、どちらに注力すべきかを見極めるのが難しい。

重要なのは「売り」ではない。商品を定義できるかどうか

結論から述べると、重要なのは「商品の定義ができるかどうか」である。

お金の支払いでも、商材(商品・役務)の提供でもない。一覧にリストされる商品の定義ができる側こそが、プラットフォームの鶏卵問題で一番最初に手を付けるべき存在である。

 お金の流れや需給の希少性で判断すると見誤る

これまでの事例で出てきたように、金銭授受の流れを中心にして注力するサイドを決めると見誤ってしまう。

役務提供モデルで考えた場合に、お金を受け取り、役務や労働を提供出来る側だけを集めても上手く行かないだろう。

例えば、家具の組み立てなどの雑務を一手に引き受けるなんでも屋のような役務提供者と軽作業依頼者を結びつけるマーケットプレイスを企画したとする。金銭授受の流れと需給バランスの希少性の低さを鑑みて、お金を受け取り商品たる労働力を提供する役務提供者を先に集めたところで、そこには仕事が存在していない状態であり、あつめた役務提供者もリテンションせずに成功しないだろう。

商品を定義できる側が出発点

なんでも屋マーケットプレイスの例で言えば、 業務の内容を定義することが出来る依頼者側 を集めることが重要になる。

これは役務提供型のマーケットプレイスにのみ適応できる話ではなく、物販型のマーケットプレイスでも同様である。物販型のマーケットプレイスであれば、 商材を提供して販売代金を受け取る側がたまたま商品を定義する側であった というだけの話である。

取引の媒介となる商品がどんなものなのかを定義できないと、取引が具体像を結ばない。

「私は力仕事ならなんでも出来ます」「M&Aコンサルティングファームとスタートアップの知見があります」「ブランド物の財布をお手頃価格で手に入れたい」では定義が曖昧で、取引の媒介をするには不十分である。

これが例えば「今週末にIKEAのテーブルセットを○○円で組み立ててください」「特定セグメントのスタートアップを対象としたM&A及びその後のPMIについてのアドバイスがほしい」「ヴィトンの○○というラインの△△年のモデルの新品未使用品をxx円で売ります」という状態にまで商品が具体的に定義されることで初めて、取引に耐える商品になる。

これらの「商品の定義ができる」サイドこそがマーケットプレイスを始めるにあたって一番最初に注力すべき出発点である。

まとめ

これまで述べてきたように、プラットフォームの鶏卵問題については、誰が商品を定義できるかの見極めが重要である。

  • 一般的にプラットフォームはサプライヤーが起点とされる
  • どちらがサプライヤーかは需給バランスや金銭の流れでは決まらない
  • 取引する商品の内容を決定できる側がサプライヤーである

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