これはなにか
※本記事はドクターズプライム Advent Calendar 2021の9日目の記事です。
株式会社ドクターズプライムのメンバーがプロダクト開発や日常業務についての記事を書きます。 https://drsprim…
先週に引き続きアドベントカレンダーです。
今回はサイバーエージェントの新卒同期で現在はHRBrainで取締役 VPoEをしている”かわちゃん”こと、川田さん(@ssossan)と下記のツイートのスレッドでやり取りした題材を掘り下げようと思います。
事業で最大の成果を得るためには、開発のシステム的な構造や組織を含めてビジネス設計をできているかどうかが最重要で、実は優秀なエンジニアがいるかどうかはそれほど重要ではないのかも
— 川田 浩史 (@ssossan) December 4, 2021
多少、概念的ですが最後までよろしくどうぞお付き合いください。
すべては収益構造とコスト構造
すべての意思決定は経営の視点から見ると、収益構造とコスト構造に対してプラスをもたらすかマイナスをもたらすか、そしてその時間軸が短期か長期かという2x2x2=8区分しか存在しない。
デッドであれエクイティであれ資本主義の枠組みの中で資金を調達して経済活動をしていくのであれば、それは資本主義の制約を受ける。
資本主義の制約を受けると、結局はすべての企業活動や意思決定は数字に還元されて、以下の図で示す構造のどれかに収まる。
例えば、新卒採用を行うという意思決定は、短期的にはコスト構造に対してマイナスの影響を及ぼす第7の影響を持ちながらも長期的には収益構造にプラスの影響を及ぼす第2の影響を持っている。
どういう開発チームの構成にするのか、どういうアーキテクチャにするのか。どの部分を外部にお願いして、どの部分は内製で持つのか。そのそれぞれの意思決定もこれらの8つの影響のどれかないしは複数に落ちつく。つまりはその意思決定が収益・コストのどっちの部分に(Where)、どのタイミングで(When)、どれくらい(How Much)経営にプラスをもたらすのかを考えて意思決定をおこなっていく。
このように、オフィス選定も人事施策もプロダクト施策も採用の打ち手もマーケティングも営業も全部この8つの影響のどれかに還元されてしまう。
あとは強いて言うならば、それらに対して、本当にそれが起こるかどうかを司る、蓋然性(probability)の概念が入ってきて、意思決定をする。
つまるところ、すべての議論はこの表で表すことができる
要素 | 選択肢1 | 選択肢2 |
---|---|---|
影響の対象 | 収益構造 | コスト構造 |
影響の方向 | プラス | マイナス |
影響の時間軸 | 短期 | 長期 |
影響の蓋然性 | 高い | 低い |
8つの影響の勘所を合わせる
これらの8つの影響のうち、何を重要視して何を軽視するのか、どこを追求してどこを妥協するのか、この感覚が合っていないとチームがひとつにまとまらないし、コミュニケーションコストが掛かってしまう。
上長や経営陣との話においても、ここの目線が揃わないと提案が通らないし、議論が平行線になるし、権限移譲が進まない。
クオリティ向上は経済的にはサチる
事業の種類にもよるけれど、一般的にはクオリティの向上がもたらす経済的なリターンは早晩サチってしまう(=サチュレーション、成長グラフが寝る)
わかりやすさのため極端な図にしているが、チャートにすると以下のような図である。
一定レベルまで上がったクオリティをさらに向上させようとするとき、それらの活動は前述の8つの影響に当てはめると、「収益構造に長期でプラス」である第2影響か、「コスト構造に長期でプラス」である第6影響か、もしくはその両方に当てはまる。
クオリティが一定に到達すると、それ以上のクオリティを上げる活動に対して説明(実行することによる経済的リターンの大きさ)が必要になるケースが多いが、それはその活動のリターン回収が意思決定者の時間軸に沿っていない(大体は意思決定者の考えるリターン回収時間軸より長期的なものになってしまう)からである。
サチる宿命の中でもクオリティに投資するために
このチャートがサチらないようにする方法がある。時間軸を長く設定することである。
このチャートはリターン回収までの時間軸という概念が抜けている。
例えばリターン回収期間を短く設定するとチャートはサチりやすくなる。
具体的にはリターン回収を1週間後に設定したとき、このクオリティ・リターン曲線はすぐにサチってしまうだろう。ユーザーにぱっとすぐ伝わりかつメイン指標にインパクトするようなクオリティ上げにしか投資ができない。
デザインで言えばLPやわかりやすいUIの磨き込みだろうし、エンジニアリングで言えば表示速度の改善やリコメンドロジックの修正といった収益に直結する外部品質の向上が限界になる。
一方、リターン回収期間を長く設定できると、チャートはサチりにくくなる。
具体的にはリターン回収を1年後に設定したとき、ユーザーにすぐには伝わらない内部品質の向上やプロダクトのクオリティを上げるためのチームへの投資のような間接的なクオリティ向上施策にまで投資できるだろう。
意思決定を行っていくにあたって、この「あるクオリティ向上のアクションをしたときに、リターンを期待するまでの期間」を、如何に長く設定できるかが大事だなと思っている。
前述の例のように、ここを長く設定できると、先程の8つの影響のうち、長期でプラスになる活動、すなわち「一定レベル以上のクオリティの磨き込み」に時間を使うことができるからである。
プロダクト作りに携わる人であれば一度はぶつかったことがあるであろう、クオリティ追求の説明コスト。これを限りなくゼロに近づけて、クオリティ追求の多くを説明コストなしで実行できるようになれると良いと考えている。
短期的なものを求められ続けて長期的に本質的なものが追求できない、そういった自体に追い込まれるのを避けることができる。
当然、事業的にいまは短期的なものを追い求めるときだというシーンもあるはずなのだが、それを外部・構造的に強いられるのと、短期的な追求を脇においておいて、長期的なものを追い求めることもできるという両方のオプションを持つなかで、自発的に自らの意志で短期を取るのとでは話が全く違う。
時間軸を長く持つために重要なこと
そのために必要なことは3つある。「資本と握る」ことと「収益を上げる」ことと「不経済を織り込む」ことである。
資本と握る
これが本質で、これをやるにあたって残りの2つが大事という構図になっているのだが、資本と握るということが大切だと考えている。
「資本と握る」というのは資本主義と方針の合意をつくるということを意味する。ここで言う資本主義は「資金を市場から調達した、その調達元」ないしは「その期待」である。
具体的には投資家、銀行、親会社などだし、もっと言うと生株を持つ起業家本人もこの中に含まれる。
資本主義は増幅していくし、お金を増やし自己増殖し膨張していく特性がある。それゆえに一定の時間軸で一定レベルの資本の増加を計算・期待するという性質がある。
それゆえにその出し主と、リターン回収の時間軸を握ることが肝要だと考えている。
ここのすり合わせが行われていなかったり、ここがズレるとすぐサチるチャートの上でクオリティ追求するという結果になってしまう。
収益を上げる
そして資本と握る上で大事なことが、逆説的だしアイロニックだが、収益を上げるないしは収益が将来的に上がる構造にベットすることである。
足元の収益が伸び続けていない状況や将来的に収益が上がる見込みのある状態(事業的に兆しがある、社会構造的に必ず来る未来)が作れていない状況では資本と握るなんてことは不可能だ。
不経済を織り込む
長期にかまえてリターンを回収しようとすると、どうしても不確実性は高くなり蓋然性が下がる傾向にある。
そうなったときに一定の割合で不経済が発生する。すなわちすぐにリターンにつながらないし、長期的にも失敗してしまった、というケースである。
不経済を恐れていると、リターン回収の時間軸を長期で持つことはできない。長期ほど不確実性が高まって不経済のリスクが高まるからだ。
これを織り込んでいる良く知られた事例がGoogleの20%ルールだろう。GMailもこの20%ルールから生まれている。
若手の抜擢もこれに似ている。投資委員会で1,000万の資本金を渡して新卒に子会社を立ち上げる抜擢をするなども、この不経済を折込みリターン回収の時間軸を長期に構える事例だと考えている。
具体的な打率のデータは持たないが、仮に高く見積もって打率が3割だとすると、1,000万円 x 10回 = 1億円の投資をして、7,000万円は溶かすことになる。それでもその不経済を折込むことで、長期的な次の柱になる種まきを行えるし、失敗した若手はその経験の中で大幅に成長するため、「3-5年後の中核メンバーの育成」という短期ではコスト構造にマイナス(第7影響)で長期では収益構造にプラス(第2影響)になる長期的な打ち手を実行できているのだと考えている。
おわりに
ドクターズプライムでは現在これらの3つをどれも強く持つことができていると思う。
それは医療の産業ドメイン自体が巨大で専門性が高く、複雑な業界構造になっていて、短期決戦で大きなインパクトを残せるほど容易いドメインではないため、必然的に長期的な視点が必要になるからだ。
また加えて、当社の事業モデルと描く未来において、プロダクトとビジネスモデルによる新しい仕組みが必要になるため、クリエーターがクオリティを追求できる構造を持つことが長期的に競争力の源泉になると考えているからである。
外的・内的環境は変わっていくものではあるので、どこかのタイミングでバランスが崩れる瞬間もあるかもしれないが、これらを大切にして人々の医療と健康という長期ベットを行うに値する、意義のある事業に合わせて、長期の時間軸で取り組んでいけるように努めていきたい。
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